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楽しげに「テレノイド」と会話する女性(左)=尼崎市下坂部、「ゆめパラティース」
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楽しげに「テレノイド」と会話する女性(左)=尼崎市下坂部、「ゆめパラティース」
タブレット端末で「テレノイド」を操作し、会話する職員=尼崎市下坂部、「ゆめパラティース」
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タブレット端末で「テレノイド」を操作し、会話する職員=尼崎市下坂部、「ゆめパラティース」
佐藤眞一教授
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佐藤眞一教授
井上憲さん
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井上憲さん
数井裕光教授
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数井裕光教授

 「僕は今日、スパゲティを食べたよ」

 「ああ、いいものを食べたね。おばあちゃんも食べたいわ」。認知症の90代の女性が優しく答えた。

 「高い、高いして」とせがまれると、持ち上げて「重たいわ」と笑い、童謡を歌ってみせた。

 兵庫県尼崎市の特別養護老人ホーム「ゆめパラティース」。高齢女性と会話するのは、昨春導入した子ども型ロボット「テレノイド」だ。アンドロイドなどの研究で知られる大阪大学の石黒浩教授らが開発した。少し離れた所にいる職員がタブレット端末で遠隔操作し、マイクを通して話し掛ける。

 テレノイドは無機質な外見だが、認知症の人の自発的な会話を引き出せるとされ、新たなコミュニケーション手段として期待される。同施設の女性職員(27)は「幼い子どもをあやすように接していて、笑顔で会話する方が多い。子育てや出身地の話など、職員も聞いたことがなかった深い話が出てくることもある」と驚く。

 この効果について、認知症の人の心や行動を研究する大阪大大学院の佐藤眞一教授(63)は「ロボットに個性がないから各自のイメージを投影しやすい、大人に感じる緊張がなくなる-などが考えられるが、まだ分からないことが多い」。

 認知症の症状で最近の出来事が覚えていられなくなると、周囲の人との日常会話は減っていく。しかしテレノイドとのやり取りからは会話ができないわけでも、したくないわけでもないことが分かるという。

 佐藤教授は「テレノイドは、うまく心の世界に入り込めば、コミュニケーションができることを教えてくれる。本人が感じる苦しみや孤独の緩和につながる可能性がある」と指摘する。

     ◆

 11月、同県加古川市で認知症を発症する前段階「軽度認知障害(MCI)」の早期発見につながる実証実験が始まった。

 同市やNTT西日本などによる共同事業で、市内から募った65歳以上の参加者宅にセンサーを取り付け、睡眠や移動の情報を収集。データを人工知能(AI)で分析し、認知症やMCIを検知するプログラムの完成を目指す。MCIを早期発見し、適切な治療をすれば機能を回復したり、認知症発症を遅らせたりできるといわれている。

 この事業のAI開発などは「ジョージ・アンド・ショーン」(東京都)が担う。代表取締役の井上憲さん(39)が、仲間と同社を立ち上げたのは、祖母の徘徊がきっかけだった。約5年前、認知症の祖母が出掛けたまま帰宅せず、家族で捜し回ったことがあった。

 徘徊を何度か繰り返し、「祖母が出掛けるのを嫌がるようになってしまったのが一番つらかった」と井上さん。その経験からスマートフォンで位置情報が分かる小型端末を開発し、AI開発にも乗り出した。「長生きしても、できるだけ健康に過ごせる社会の実現が使命」と意気込む。

     ◆

 認知症に伴うさまざまな症状の対処に向け、インターネット上で介護する家族らの知恵を結集する取り組みが注目されている。

 大阪大などの研究チームが2016年、サイト「認知症ちえのわnet」を開設。症状に対し、家族や医療・介護の専門職に、実際にどんな対応をして、どういう結果になったかを書き込んでもらう。投稿をもとに、うまくいった割合(奏功確率)をグラフで示す。

 例えば「薬を飲み忘れる」への対応は、「薬カレンダーなどを利用する」の奏功確率が61%にとどまったが、「薬を本人に手渡しできる体制を作る」は92%だった。

 不安や妄想、怒りっぽくなるなどの「行動・心理症状」は、周囲の接し方や声のかけ方によって和らげられるといい、研究の代表者である高知大の数井裕光教授(55)は「介護する家族が最も困っている症状に、多くの対応が提案されてきたが、有効性が検証されてこなかった」と指摘する。

 これまでに2千強の投稿があり、さらにデータを集めたいという。教授は「奏功確率を目安にそれぞれ最適な対応を見付けてもらえば、認知症になっても生活の質を維持することができる」と語る。

 認知症700万人をどう支えるか。新しい技術の模索が続く。

    ◇    ◇

■兵庫県内の認知症高齢者 25年には30万人と推計

 兵庫県内の認知症高齢者数は、少なくとも2020年に約27万人、25年に約30万人になると推計される。

 認知症とは、脳に病的な変化が起きることで機能が低下し、日常生活に支障が出ている状態を指す。

 認知症と、老化によるもの忘れは違う。「夕食で何を食べたかを忘れる」「買い物に行き、買う物が思い出せない」は、もの忘れ。認知症なら「夕食を食べたことを忘れる」「買い物に行ったことを忘れ、また行く」などが起きる。

 症状には「中核症状」と「行動・心理症状(BPSD)」の二種類がある。中核症状は、脳機能の低下によって共通して現れやすい症状で、新しいことが覚えられないなどの記憶障害▽時間や場所が分からなくなる「見当識障害」▽思考や判断力の低下▽手順が複雑な料理などができなくなる「実行機能障害」-など。

 BPSDは妄想や徘徊、暴言・暴力などで、心身のストレスや人間関係、生活環境などが影響して現れる。本人なりの理由や目的があり、周囲の接し方や薬による適切な治療によって抑えられることもある。言ったことを否定せず、プライドを傷つけないよう接することが大切だという。

 認知症の原因となる病気は大きく四つ。全体の6割以上を占める「アルツハイマー型」や、脳梗塞や脳出血が原因の「血管性」のほか、「レビー小体型」、「前頭側頭型」がある。

 健常な状態と認知症の中間にあたる軽度認知障害(MCI)は、日常生活に支障が出ていない点が認知症と違う。認知症に移行する人も、認知機能が正常に戻る人もいる。

(切貫滋巨)

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