スポーツ

  • 印刷
東京都北区、味の素ナショナルトレーニングセンター
拡大
東京都北区、味の素ナショナルトレーニングセンター
チリで開催された三枝大地選手権のメダル(三枝さん提供)
拡大
チリで開催された三枝大地選手権のメダル(三枝さん提供)

 バレーボール女子ユース日本代表監督として、国内最高峰の若手選手を指導する三枝大地さん(39)は、3大会連続でチームをアジア選手権の頂点に導いた。東京五輪をにらむ現在の日本代表には教え子がずらりと名を連ねる。だが、選手としての経歴を聞くと、中学時代は年間に一度も勝てなかったチームの控えで、その後も華々しい活躍とは無縁だったという。マネジャーとして大学日本一に貢献したり、青年海外協力隊としてチリで活動したり、幅広い経験を生かした指導法は独特だ。一流選手ではなかったからこその指導論、人生観を紹介したい。(永見将人)

 -高校時代、目立った活躍はなかったのに「日本一になりたい」と強豪の東海大学へ進んだ。無謀のようにも見えますが。

 「バレー界のことを何も知らなかったんです。母校の北条高校の卒業アルバムに『将来バレーで世界を沸かしているだろう』と書いたぐらいですから。東海大が一般入部を受け入れていないことも知らなかった。推薦か付属高からだけで“春高バレー”で活躍した選手ばかりなんです。監督に毎日頼みに行き、やがて見学を許され、最後は泣き落としみたいな形で入れてもらいました」

 「1年の時は練習についていけず、ほとんど球拾いとか床磨きで練習後に練習しました。とにかくうまくなりたくて、後輩にも教えてもらった。夜中に寮を抜け出し、近所の小学校で懸垂をした。2年の終わり頃でしたか、監督がみんなを集めて『三枝を見てみろ。最初はモヤシだったのに今はゴボウだろ』と。レギュラー選手たちの練習にも入れてもらえるようになりました」

 -4年生の時にはマネジャーとして優勝に貢献しました。その後にどう生きましたか。

 「東海大ではマネジャーら4年生(の幹部)がチームを運営します。監督から『選手の10倍大変な分、格段の勉強になる』と言われましたが、本当でした。10年前、日本オリンピック委員会(JOC)の専任コーチングディレクターを任されたのも、マネジャーや青年海外協力隊の経験を評価してもらってのこと。いろいろな人とコミュニケーションをとり、調整することばかりですから」

 -2年で就職先を辞め、青年海外協力隊として南米チリへ。思い切った決断ですね。

 「運送会社に入って1年目に2週間の休みをもらい、協力隊のプログラムで子どもたちにバレーを教えるため、アフリカのニジェールへ行ったんです。こんなところがあるのかと驚きました。マラリアや破傷風で命を落とす人が結構いる。体育館は国に一つしかなく、地方では砂に自分たちでコートを描き、ネットは棒に架けてあるだけです。それでも子どもたちの目が輝いていた。驚くほど吸収が早かった。いつかまたやってみたいと思いました」

 「翌年会社を辞め、今度はチリのバルディビアへ2年間行きました。大学バレー部の指導でしたが、学生にトレーニングの大切さが伝わらない。自分が見せるしかないなとチームを結成し、1年間断酒してトレーニングしました。そして社会人や学生が集まる全国大会で優勝し、スパイク賞ももらった。そのメダルを持ち帰ると、学生が勝手にトレーニングをしてくれるようになりました」

 -チリでは普及などの功績がたたえられ、帰国後に三枝さんの名を冠した大会が開かれたとか。

 「滞在中、2年間の活動が終わっても町に何かを残したいと思い、バレー協会をつくろうと考えたんです。他の大学の指導者と連携し、審判講習会や大会を開くなどして実現させました。当時つくったのが『トモダチ』という社会人チーム。本当に友だちのつながりで、今も小中学生の指導を続けてくれている。彼らが2016年に『三枝大地選手権』という大会を開いたんです。報告の写真が届いた時は驚きました」

 「協力隊で、自分の常識が世界の常識じゃないと気付くことができました。国際大会では予期せぬことが起きる。アウェーの洗礼は、できるだけ経験したほうがいい。今の選手たちにも話してます。この年齢で経験できたら、これから先めちゃくちゃ生きてくるで、と」

 -できるかできないかより、やってみるという生き方。原点はどこにあるのですか。

 「両親の育て方ですね。まずやってみいやと。小学生か中学生の頃、稲を育てたいと父に相談したら『家で一番、日が当たるのはどこや』と聞かれ、『屋根の上』と答えたら『ほなそこで育てろ』と。発泡スチロールを並べ、毎日水をやりました。栄養が不足していたのかあまり育たず、収穫も少なかったのですが、やらずに後悔するより、やって後悔。やっての後悔は学びがあります」

 -ユースの代表合宿で量子力学の話をしたり、「米国のスター選手の多くが引退後に破産する」という記事を読ませたり。指導法は独特です。

 「バレー界の常識がありませんから。選手をよくするのに、方法はバレーじゃなくてもいいと考える。選手を連れ、重量挙げや体操のコーチに練習法や体の使い方を教わりに行きます。スポーツに限りません。バレーで世界一になっても、経験が社会で役に立たなかったらもったいない。だから破産の記事を読ませました。量子力学の話は、各自があらゆることに影響力を持っていることを伝え、だからこその行動を考えてもらうきっかけづくりです」

 「昨年、20歳以下のカテゴリーに上がったユースの選手たちが世界選手権で優勝しました。セッターの選手に『おめでとう』と声を掛けると『世界一って、何ですかね』。喜んで終わらず、通過点として今後にどう生かすか考えていた。ちゃんと伝わっているな、と感じました」

【さえぐさ・だいち】1980年兵庫県加西市生まれ。市立北条中、北条高を経て東海大卒。2010年からJOCのバレー専任コーチングディレクター。ジュニアやユース世代の女子日本代表コーチ、監督を歴任。

■記者のひとこと

 エリートより、そうでなかった人の話こそ、参考になる気がする。同じように感じる子どもたちが多いのだろう。三枝さんが中学校で講義をした後、ずらりと「人生相談」の列ができたそうです。

スポーツの最新
もっと見る

天気(4月1日)

  • 17℃
  • ---℃
  • 80%

  • 17℃
  • ---℃
  • 90%

  • 17℃
  • ---℃
  • 80%

  • 17℃
  • ---℃
  • 90%

お知らせ