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不動産プランナー岸本千佳さん=京都市上京区(撮影・吉田敦史)
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不動産プランナー岸本千佳さん=京都市上京区(撮影・吉田敦史)

 新型コロナウイルスで、私たちの暮らしや働き方は、かつてないほどの変化を迫られた。外出自粛を機にテレワークの便利さを実感し、自宅での過ごし方を見つめ直した人は多い。阪神・淡路大震災、東日本大震災。大きな災害のたび、物心両面で価値観の変換が叫ばれ、変わったこともあれば、しばらくたつと元に戻ったこともあった。コロナウイルスと折り合いをつけながら、この後、どんな変化が訪れるのだろう。「アフターコロナの住まい予想図」という投稿がネットで話題になった京都市の岸本千佳さん(34)は、職住一体、職住近接を提唱する不動産プランナーだ。岸本さん、住まいはこれからどうなりますか。(竹内 章)

 ー外国人観光客(インバウンド)でにぎわった京都の風景は、新型コロナで一変しました。

 「1年前に地元メディアの取材を受けたとき、『狂乱の京都』と表現しました。改修に費用がかかりそうな町家が、異常な価格で取引されるのを複雑な思いで見ていました。今は一棟貸しの宿が、どんどん売りに出されています。出店しようとする事業者は相当減っています」

 「ただ、地元で丁寧に商売をしているようなお店は、インバウンドに特化していた同業他社に比べ打撃は小さいです。何も考えず、作りさえすればもうかるようなバブルは、遅かれ早かれ崩壊すると思っていました。コロナ禍でその時期が来たと思っています」

 ーそんな中、投稿した「アフターコロナの住まい予想図」が反響を呼んでいます。

 「建物の企画から完成後の運営まで担うのが、不動産プランナーの仕事です。シェアオフィスやシェアハウス、複合用途の物件に取り組む中で、つながりたいときだけつながれる絶妙な距離感を考えてきました。家族の枠を超え、人が集まるような居場所が地域にあれば、これからの不安定な時代を生き抜く支えになるかもしれない。そう考えると、不動産の物差しは変わっていくでしょう。住居と店舗、住居と共用部といった住まいのあり方が変わります。小さな経済圏で職住一体の暮らしも選択肢に入ってくる。そういったメッセージを込めました」

 「投稿には、たくさんの反応をいただきました。『大勢で集まる場所は減り、家族とか近所とか街とか、小さなエリアでの安心感がリアルの感覚になっていくのでは』『社会のあり方が変わるように家のあり方も多様化しそう』など。もちろん厳しい意見もありました」

 ー価値観そのものが、コロナ禍を機に変わるという議論が盛んです。東日本大震災のときも同様で「東京志向をやめて地方へ移住しよう」といった声が上がりましたが、大きな流れにはなりませんでした。

 「震災時、首都圏の人たちは一時的な自粛や避難を経験しましたが、今回のように日常的な行動が大きく強制的に変えられたわけではありません。でも、満員電車に乗らない生活が日常になってしまうと、『なんで東京にいないといけないの?』と当たり前を疑うようになると思います。当時と違って、『直接会えない』ことのハンディは確実に小さくなっています。コロナが終息しても、こうした違和感は消えないのではないでしょうか」

 ーそうなると、どんな変化が訪れるのでしょう。今後、オフィスや住まいを選ぶとき、どんな条件が重視されるようになると思いますか。

 「テレワークが進むとオフィスは、必ずしも面積が広かったり、駅近くであったりする必要はありません。テナント物件も、これまでは人が集まる市街地の中心部が鉄則でしたが、今後もそれが通じるでしょうか。地域の小さな経済圏で、人間関係を大切にしながら事業をする、仕事と生活がもっと密になったようなライフスタイルに価値を置きたいと思っています。東日本大震災後、私が京都に戻ったのは、東京が大きすぎるように思えたからです。京都や神戸、福岡とその周縁部には自然があって、大都市にもアクセスでき、商圏が成り立っています。東京から、そんな街への人の流れは確実に起きると思います」

 ーテレワークが定着し、おうち時間が長くなると、「わが家」はどう変わっていきますか。

 「住環境をよくしたいというニーズは高まっています。ダイニングキッチンで、家族が充実した時間を過ごせるような間取りが定着するのでは、と予想しています。逆に、最近ではリビングにテレビがない家庭もあり、各自が情報端末を持っていれば、今ほどのリビングの広さは必要ないのかもしれません。オンとオフを切り替えられるテレワークの場所も必要になると思います」

 「単身者向けには、集まってご飯を作って食べることができる場を計画したいです。一緒に食べる方が絶対に楽しいし、作りがいもありますよね。閉ざされた建物内の一室でなく、ほどほど外に開放されたような共用ダイニングです。コロナ禍の今は、出来合い品の配達が人気ですが、地元の名店のシェフや料理人を招いて、地元の食材で逸品を調理してもらい、ご近所さんでわいわい楽しめるようなサービスが生まれたら、面白いと思いませんか」

 ー店舗、事務所、アトリエなどと住居を兼ねて使える物件を紹介する不動産メディア「shokuju」(https://shokuju.com)で話題を発信しています。

 「職住一体の住まいは、これまではモノづくりなどクリエーターに人気でした。コロナ禍で、住むことと働くことの距離は一気に縮まり、選択肢としてもっと一般的になると思います」

 「気に入った場所に住み、歩いて5分圏内に仕事場を持つ、職住近接という暮らしも考えられます。これまで必要だった出社や対面の会議、それに要する移動を省略しながら、気の合う人間関係や自分の時間を大切にして穏やかに暮らす。これからの豊かな生活について、そんなイメージを持っています」

     ◇     ◇

【きしもと・ちか】1985年京都府宇治市生まれ。滋賀県立大学を卒業後、東京の不動産ベンチャーに入社し、シェアハウスやDIY賃貸の事業立ち上げを担当。2014年、京都市で不動産の企画、設計、仲介、管理を担う「アッドスパイス」創業。

◇記者のひとこと 昔、香港やタイ・バンコクを旅したことがある。朝な夕な、屋台の前では食器を持った家族らしき人たちがだんらんを楽しみ、所在なげな旅行者を「座れ」と手招きしてくれた。密集都市で台所を確保できないゆえの習慣かもしれないが、岸本さんが提唱する緩やかな共用ダイニング構想とも重なる。子ども食堂の次は大人食堂、かもしれない。

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