社説

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 昨年7月に起きた「京都アニメーション」の放火殺人事件で、京都府警は殺人や現住建造物等放火などの疑いで、京都市内で入院中の無職青葉真司容疑者を逮捕し、京都地検に送致した。

 事件では36人が死亡した。殺人事件の犠牲者では平成以降で最も多い。ほかに33人がけがを負い、うち1人は今も入院中だ。時間がたっても遺族や被害者の傷が癒えることはなく、凄惨(せいさん)な犯行が社会に与えた衝撃は消えない。府警は全容解明に向け丁寧な調べを進めてもらいたい。

 府警は事件直後に逮捕状を取っていたが、容疑者が負ったやけどの治療と新型コロナウイルス感染拡大の影響で10カ月後の身柄確保となった。遺族や関係者にとってはつらい月日だったに違いない。

 逮捕された青葉容疑者はストレッチャーに乗せられ、顔にやけどの痕が見えた。自力での歩行や食事もできないが、会話は可能になった。

 ここまで回復できたのは、皮膚移植など高度な医療が施されたためだ。容疑者が死亡していれば事件の解明は望めない。「こんなに優しくしてもらったことは、今までなかった」と感謝を口にしたという。医療スタッフの努力には頭が下がる。

 しかし逮捕後、青葉容疑者は容疑を認めつつも、被害者や遺族への謝罪や反省を述べていないという。昨年11月に府警が行った事情聴取の際にも、「どうせ死刑になる」と投げやりな言葉を発している。

 多くの命を奪いながら、自らは懸命な治療によって救われたことを重く受け止めなければならない。取り調べに対しては、真実を包み隠すことなく誠実に応じるべきだ。

 今後の焦点は動機の解明である。

 容疑者は事件の数日前から現場周辺を下調べし、ガソリンのほかハンマーや包丁も所持していた。「多くの人が働いている第1スタジオを狙った」と供述しており、計画的に準備をしたとみられる。

 だが動機については「小説を京アニに盗まれた」などと話しているものの、確たるものはまだ見えない。犠牲になった男性社員の両親は「なんでそこまでせなあかんかったん」と思いを語った。遺族の問いに答える捜査が待たれる。

 容疑者は社会から孤立していたという。悲劇を繰り返さないためにも刑事責任の追及に加え、事件の社会的背景を解明する必要がある。

 被害者の実名報道を巡る議論も起きた。事実に迫る取材や検証をする上で実名は欠かせない。一方で過熱する取材への批判から、匿名を支持する声もある。メディアは批判を真摯(しんし)に受け止め、信頼を高める努力を重ねていかねばならない。

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