社説

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 阪神・淡路大震災で私たちは「地域の絆」の重要性を痛感した。普段からの近所付き合いが、災害時に命綱となる。被災地にはそんな事例がたくさんあった。

 あれから四半世紀。日本の人口は減少に転じ、高齢化率は2倍近い28・1%になった。1人暮らしが全世帯の3割超を占める。雇用のあり方も変わり、約4割は非正規で働く。

 地域、家族、会社…。従来あった人と人とのつながりはずいぶんと細くなった。「無縁社会」と表現する人もいる。そうした中、甚大な災害が多発する。

 しかし、悲観してばかりもいられない。地域における共助をどう機能させるのか。「1・17」の教訓を出発点に広がりつつある新たな取り組みから考えたい。

       ◇

 東京都庁で袈裟(けさ)姿の男性らが小池百合子知事に要望書を渡した。2017年9月のことである。

 寺や神社、キリスト教会などの団体でつくる東京都宗教連盟が、巨大地震に備えた連携を都に申し入れた。帰宅困難者を宗教施設で受け入れる態勢を整えたい、との趣旨だ。知事は「行政としてもありがたい」と応じ、連絡会が設けられた。

 都宗教連盟のメンバーは、阪神・淡路の経験者から話を聞くなどして災害時の自分たちの役割を考えてきたという。

  「政教分離」を超えて

 25年前。神戸市長田区のカトリック鷹取教会(現カトリックたかとり教会)は、大火で聖堂を失いながらも宗教の枠を超えて外国人を含む住民の救援拠点となった。そこで育まれた支援活動は今も続く。

 地域社会の一員として宗教施設も役立つ存在になる必要がある-。都宗教連盟が思いを強くしていたところに東日本大震災が起きた。

 東北では自治体の指定避難所が津波で流され、高台の寺社に多くの住民が身を寄せた。畳敷きの施設や広い駐車場、井戸などがあり、避難所として大きな役割を果たした。以降、災害時の宗教施設の活用が各地で議論されるようになった。

 実際、1960年代ごろまで寺社は地域の避難場所だった。供養や慰霊といった、宗教の持つ「癒やし」の力も無視できない。

 大阪大学大学院の稲場圭信(けいしん)教授(宗教社会学)の2014年調査によると、全国の303自治体が計2401の宗教施設と災害時の協力関係を築いていた。兵庫県内では多可町が、多可郡仏教会と災害時応援協定を結んでいる。

 「これまで政教分離を拡大解釈して、行政と宗教は連携できないと誤解されるケースが多かった。布教に使われるのではとの警戒感もあったが、二つの大震災を経て払しょくされた」と稲場さんは話す。

  平時の関係づくりを

 課題は少なくない。建物の耐震性を高めることが不可欠だ。

 阪神・淡路では、多くの寺社で木造の本堂や山門などが倒壊し、犠牲者も出た。

 神戸市兵庫区の瑞龍寺でも本堂が全壊したため、避難してきた近隣住民を受け入れられず、遺体安置所として貸してほしいという市の要請も断らざるを得なかった。

 本堂は鉄筋コンクリート3階建てで再建し、浸水被害にも備える。住職の矢坂誠徳(せいとく)さんは「檀家(だんか)かどうかに関係なく、困ったときに頼りにされてこそ」と痛感している。

 近隣住民との関係に悩む宗教施設も多い。除夜の鐘や祈祷(きとう)がうるさいと苦情を受ける時代である。

 だが全国に寺は7万7千カ所、神社は8万5千カ所あり、コンビニや小学校より多い。自治体と宗教施設間で芽生えた連携の機運を、防災に生かさない手はない。

 それには平時からの関係づくりが欠かせない。祭りや伝統行事だけでなく、多様な活動拠点として自治会や自主防衛組織、NPOなどと交流することも有効だろう。

 行政による公助には限界がある。地域の宗教施設も含めた共助のネットワークの再構築が求められる。

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