社説

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 相模原市の知的障害者施設で入所者19人が殺害され、職員を含む26人が重軽傷を負った事件で、殺人罪などに問われた植松聖被告(29)の裁判員裁判が始まった。

 「障害者は不幸を生む」「安楽死した方がいい」。被告は事件前からそうした過激な言動を繰り返していたとされる。罪もない人たちを一方的に殺傷した犯行はあまりに身勝手で、大きな衝撃を与えた。

 施設に職員として勤務し、入所者が「かわいい」と話していた青年が、なぜ差別意識を強めるようになったのか。無抵抗の人たちにやいばを向けたのはなぜか。

 事件には依然、深い闇がある。公判では動機など被告の心理をできる限り解き明かさねばならない。

 同時に差別を生む社会の問題にも切り込まなければ、全体像は見えないだろう。裁判員は市民目線で疑問点を掘り下げてもらいたい。

 気がかりなのは、被告本人の振る舞いである。先日の初公判では、右手の小指をかみ切ろうとして取り押さえられ、裁判は一時中断した。

 被告は大麻吸引の影響による精神障害と診断されたことがあり、弁護側は「心神喪失か心神耗弱だった」と無罪を主張している。

 一方、検察側は「病的な妄想でなく、単なる異常な考え方」で完全な責任能力があったとする。

 いずれにしても本人の陳述が動機解明の鍵となる。遺族や家族は自己を真摯(しんし)に見つめた言葉をと願う。

 専門家や被告をよく知る人たちの証言も踏まえ、本人の言葉の何が真実かを見極める必要がある。

 併せて考えるべきは、障害者への差別や偏見が深刻な現状だ。

 被告の言動に、障害者をガス室で「安楽死」させたナチス・ドイツの影響を感じ取る人は少なくない。「不良な子孫の出生防止」を掲げて不妊手術を強制した旧優生保護法の人権侵害と重ねることもできる。

 兵庫県もかつて「不幸な子どもの生まれない県民運動」を展開した。生産性などで人の価値を測るような風潮は、残念ながら今も根強い。

 この事件では、神奈川県警が被害者全員を匿名で発表した。裁判も氏名のほとんどが伏せられ、「甲A」などと記号で呼ぶ「匿名審理」である。実名公表による影響を心配する遺族らへの配慮が理由という。

 ただ、「匿名は差別の表れ」と実名で裁判に臨む父親もいれば、「生きた証しを残したい」と娘の名前などを公表した母親もいる。被害者側が思い悩まなければならない状況は、社会のいびつな姿を映す。

 裁判は3月まで続く。罪を公正に裁くとともに、共生社会を目指す確かな歩みとする必要がある。

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