社説

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 英国在住のライター、ブレイディみかこさんのルポ「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」は昨年のベストセラーです。

 アイルランド人の夫と息子の3人家族。「荒れている地域」と呼ばれる地元の公立中学校に通う息子を題材にしています。

 食事にも事欠く貧困層やアジア系を差別する東欧移民など、多様な同級生とのぶつかり合いを通して「他者への想像力」を身に付けていく息子の姿に引き込まれます。同時に、厳しい状況下の生徒を案じる教員らの奮闘ぶりも印象的です。

 日本と社会状況が異なるとはいえ、共通点もあります。格差の広がりが公教育に影を落としていること。そして、危機感を持つ学校現場が試行錯誤を重ねていること。

 足元に目を転じましょう。

       ◇

 尼崎市立水堂(みずどう)小学校を訪ねました。「すごい学校がある」との評判を聞いたからです。

 十数年前から、全校児童が毎日1時間程度の放課後学習に取り組んでいます。教室をのぞくと、計算や漢字のプリントに皆が一心に鉛筆を走らせていました。

 隣同士で解き方を話し合ったり、担任から1対1で教わったりする姿もあります。先生に採点してもらった児童からランドセルを背負い、元気よく飛び出していきました。

積み重ねが変化生む

 「当初は机に向かう習慣を身に付けさせる狙いでした」。教務主任、坂本肇先生の説明はこうです。

 校内の雰囲気が落ち着かない時期が続いた。先生らは悩みながら放課後学習を重ねた。手応えを感じたのは5年目から。基礎学力が上がり、児童が次第に落ち着いてきた-。

 放課後以外にも「朝の10分間読書」や「昼休みの10分間計算」を続けています。児童と向き合うために、職員会議を減らしました。

 全国学力調査で全国平均を大きく下回っていた国語と算数は、今や全国平均を上回るように。各地から視察が絶えないといいます。

 「児童のつまずきを早く見つけ、取りこぼさないためには、教員が目的意識を共有することが重要」。坂本先生の実感です。

 「グローバルに活躍できる人材を」「AI(人工知能)に仕事を奪われないための能力を」…。そんな声が高まり、学校教育に求められる内容はどんどん増えています。

 確かに、これからの時代を生き抜く力の養成は重要です。しかし、公教育、中でも義務教育にとって、授業が分からないまま席に座っている子をなくすことは、同じぐらいかそれ以上に大切ではないでしょうか。

 というのも、家庭の所得の違いといった子どもの努力で改善できない事柄が、学力格差の大きな要因になっているからです。

強まる親たちの不安

 気になる言葉を耳にするようになりました。「ペアレントクラシー」。親(ペアレント)の「富」と「願望」が子どもの学力を規定する、といった意味です。

 その傾向は、いくつもの調査からもうかがえます。尼崎市が小中学生と保護者に行ったアンケートでも、低所得世帯ほど「学校の勉強が分かる」と答えた子どもの割合が低く、子どもの大学進学を望む親の割合も低くなりました。

 格差の固定化が危惧されます。「身の丈」などと言って放置すれば、それは国の責任放棄にほかなりません。厳しい経済状況にある子どもの基礎学力の底上げが急がれます。先生たちの多忙さを改善するなど、公教育への投資が欠かせません。

 ブレイディみかこさんは著書で息子たちについてこう記しています。「未来は彼らの手の中にある。(略)世界はひどい方向にむかっているとか言うのは、たぶん彼らを見くびりすぎている」

 将来が不安だからと、子どもたちの可能性を大人が狭めていないか。学校は希望や自己肯定感を育む場になっているか。いま一度、見つめ直すときだと感じます。

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