社説

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 今年は4年に1度の米大統領選の年です。巨大な経済力と軍事力を背景に、良くも悪くも国際社会を強力にけん引する国家のリーダーを選ぶだけに、11月の選挙を全世界が注目しています。

 今回は、いつにも増して特別な選挙と言えます。トランプ大統領の再選が懸かっているからです。

 今月20日に4年の任期の最終年に入る型破りな指導者は、国民の分断を深め、野党民主党との党派対立を激化させるとともに、国際社会を翻弄(ほんろう)してきました。

       ◇

 ここで少し時間を巻き戻してみましょう。トランプ氏というリーダーをよく表す出来事がありました。

 2018年8月、同じ共和党の上院議員マケイン氏が闘病の末、81歳で亡くなりました。12年前の大統領選ではオバマ氏に敗れたものの、党の候補にもなった重鎮です。トランプ氏とは相いれず、政策やスタンスを厳しく批判し続け、まさに歯止め役を果たしました。

 党派にとらわれない活動や信念を曲げない姿勢、礼節をわきまえた振る舞いなどから国民の尊敬を集め、訃報が伝わると全米が服喪ムードに包まれました。

前代未聞のリーダー

 死去から1週間後、ワシントン大聖堂で営まれた葬儀には、オバマ氏やブッシュ(子)氏、クリントン氏の歴代大統領が超党派で参列しました。一方、トランプ氏は遺言によって招かれませんでした。

 「大げさな言葉や侮辱、まやかしの議論で政治が卑小でさもしく見えることがある」(オバマ氏)

 「(マケイン氏は)尊厳というものに敬意を払い、権力の乱用を憎んだ」(ブッシュ氏)

 両氏が口にした追悼の言葉は、名指しこそありませんでしたがトランプ氏への非難を含んでいました。こうした場に現職の大統領の姿がないのも異例ですが、大統領経験者がそろって、時の最高権力者への苦言を呈する光景は異様以外の何ものでもありません。

 トランプ氏は、240年以上の歴史を持つ米国に現れた前代未聞の大統領と言えるのです。

 強権的で内向きなトランプ氏の政治姿勢を一言で表すと「非寛容」ということになるでしょう。パリ協定や米ロ中距離核戦力(INF)廃棄条約などいくつもの重要な国際的な約束をほごにしてきました。不法移民の排斥を訴え、気に入らないメディアを「フェイクニュース」と攻撃し、ツイッターによる一方的な情報発信で自らを正当化する。国際協調や人権、報道の自由などの軽視が目に余ります。

 現在の状況を、民主主義の危機とする指摘も少なくありません。

大切にすべき価値観

 米国の政治学者ヤシャ・モンク氏は著書「民主主義を救え!」で、トランプ氏が大統領選に勝利できたのは多くの市民が民主主義に幻滅していたからだと指摘し、「原因を解決するため、党派を問わず政治家たちが取り組まない限り、新たなポピュリスト予備軍が待ち構えることになるだろう」と推測しています。

 米国、英国、ブラジル、トルコ…。世界の各地で民主主義が揺らいでいます。排外主義が台頭し、権威主義への揺り戻しも起きている。こうした混乱の時代だからこそ、それぞれの立場と調和を重んじる民主主義の価値観を大切にすべきではないでしょうか。

 亡きマケイン氏は大統領選時、「カントリー・ファースト」のスローガンを掲げていました。そこに込めた理念は「自己の利益よりも国のこと」です。米国さえ良ければいいという「アメリカ・ファースト」の考え方には、国際社会への貢献という大きな視点が欠けている。現在も存命なら、そんな小言をトランプ氏に伝えそうな気がします。

 大統領選は、米国の民主主義のあり方を問う戦いになります。このことは、戦後に民主主義が浸透した日本だけでなく、世界の民主主義国家への問い掛けと言えるでしょう。

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